【妖石(あやかしいし) ~蛍光性方ソーダ石含有閃長岩クラスト~ 前編】
灼熱の溶岩地獄から生まれた、燃えるように輝く妖怪の石——
この石を初めて目にした人の誰もが、そんな印象を抱くほどの衝撃を受けるはず。
そして次の瞬間には、その妖しい魅力の虜になるはず。
マッチ箱博物館がそんな自信を持ってご紹介するのが妖石(あやかしいし)です。
「あやかし」とは、不思議で怪しいものや妖怪のこと。
妖しく輝く不思議な石とは一体どんな石なのか、興味がわいてきませんか?
「百聞は一見にしかず。実物を見てみよう!」と妖石を手に取ったあなたは、
「えっ?ただの石ころ?」と拍子抜けすることでしょう。
確かに通常の光の下では、どこにでもありそうなただの石ころにしか見えません。
ところがこの石にブラックライトを当てると表情が一変、
ショッキングオレンジの輝きが浮かび上がります。
「平凡な石ころ」がガラリと姿を変える瞬間を目撃して、
石が「化けた」ように感じるかも知れません。
妖石の正式名称は「蛍光性方ソーダ石含有閃長岩(せんちょうがん)クラスト」といいます。
ずいぶん長く、耳慣れない名前ですね。
「ユーパライト」といえば、聞き覚えのある人もいるかも知れません。
ここで少し、この石が世に出てきた経緯についてお話ししましょう。
この石はアメリカはミシガン州、アッパー半島のスペリオル湖畔で2017年に発見されました。
発見者は鉱石商のエリック・リンタマキ氏。スペリオル湖はアメリカとカナダの
国境地域に位置する五大湖のうちのひとつで、淡水湖としては世界最大の面積を誇る湖です。
その周辺ではレイクスペリオルアゲートと呼ばれる瑪瑙(めのう)が採れるため、
鉱物愛好家たちの注目を集めてきました。
リンタマキ氏もそんなスペリオル湖畔を訪れてこの不思議な石を発見しました。
ただし彼は瑪瑙を求める鉱物愛好家たちが集う日中ではなく明け方に、
ブラックライトを携え蛍光鉱物を探しに出かけて燃えるように輝く石に出会ったのです。
自然光下では何の変哲もない石ころにしか見えないこの石の発見の背景には、
このようなストーリーがあったのですね。
そしてリンタマキ氏はこの石を、アッパー半島の住人の愛称「ユーパーズ」にちなんで
「ユーパライト」と名付けます。
その後の研究でユーパライトに含まれる蛍光性鉱物が方ソーダ石(ソーダライト)で
あることが分かり、「蛍光性方ソーダ石含有閃長岩クラスト」という学術名が付きました。
その後この石は、アッパー半島以外の場所でも見つかっています。
マッチ箱博物館がお届けする妖石は、
中国・雲南省産の蛍光性方ソーダ石含有閃長岩クラストです。