【星空の水晶 ~オイルインクォーツ~ 前編】
透明な水晶の中に、黄色や茶色の内包物が浮かぶ姿が興味深い石。
マッチ箱博物館が「星空の水晶」としてご紹介するこの石の内包物の正体は、石油です。
このような水晶は一般に「オイルインクォーツ」、あるいは「ペトロリアムクォーツ」
(petroleum=石油)と呼ばれています。
一体なぜ、黄色い石油を含んだ無色の水晶が「星空の水晶」なのでしょうか?
それは暗い場所でこの石にブラックライトを当てると分かります。
通常光の下では黄色だった石油が、ふわりと幻想的なブルーに蛍光するのです。
暗闇の中に浮かび上がる青白い光は、まるで夜空に輝く星々のよう。
思わずファンタジー小説に登場する魔法の石を見ているような気分になるかも知れません。
内部に別の鉱物や液体を含む水晶は数多く存在します。
しかし内包物が蛍光する水晶ということになるとグッと数が少なくなり、
オイルインクォーツはその代表的存在です。
美しく、蛍光という華やかな特徴を持つこの希少な石は「水晶界のスター」と言えるでしょう。
そんなオイルインクォーツは、パキスタンで石油や天然ガスの採掘中に偶然発見されました。
市場に登場したのは1990年代半ばで、その存在を知られるようになったのは比較的最近です。
けれどもこの珍しい水晶が生み出されたのは、果たしていつ頃なのでしょうか?
この疑問に対する見解を、パキスタンの公立大学の地質学者から聞くことができました。
実はパキスタンは、マッチ箱博物館にとって馴染み深い国。
当館では1990年代初頭からパキスタンの業者との取引を開始し、
パキスタン特産のアクアマリン結晶などのコレクションを多数所蔵しているのです。
そうした縁でつながったこの地質学者によれば、オイルインクォーツの形成年代は
何と数千万年前と推測されているとのこと。
遥か昔、水晶の成長環境の各種条件が絶妙に重なった結果、石油が水晶内部に取り込まれました。
そして何千万年もの時を経て、現代に生きる私たちの前にそのユニークな姿を現しているのです。
太古の輝く石油が閉じ込められた水晶——
そう考えるとこの小さな石の中に、地球の長い歴史と奇跡を目撃しているような気分にならないでしょうか?